大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 平成9年(オ)104号 判決

上告人

小林平

外一名

右両名訴訟代理人弁護士

坂和章平

被上告人

千田弘

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人坂和章平の上告理由のうち第一の二ないし四、第二及び第三について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に基づき若しくは原判決を正解しないでこれを論難するものであって、採用することができない。

同第一の一について

一  境界確定の訴えは、公簿上特定の地番により表示される甲乙両地が相隣接する場合において、その境界が不明なため争いがあるときに、裁判によってその境界を定めることを求める訴えであって、相隣接する甲乙両地の各所有者が、境界を確定するについて最も密接な利害を有する者として、その訴えの当事者適格を有する。そして、甲地のうち境界の全部に接続する部分を乙地の所有者が時効取得した場合においても、甲乙両地の各所有者は、境界に争いがある隣接土地の所有者同士という関係にあることに変わりはなく、境界確定の訴えの当事者適格を失わないのである(最高裁平成六年(オ)第一七二八号同七年三月七日第三小法廷判決・民集四九巻三号九一九頁参照)。

以上のことは、甲地の所有者が、甲地のうち境界の全部に接続する部分を乙地の所有者Aに譲渡し、甲地の残余の部分をBに譲渡したが、甲地の分筆登記がされず、甲地の全部についてBに対する所有権移転登記が経由された場合も同様であって、甲乙両地の境界を確定することによって初めてA及びBが譲り受けた各土地の範囲が特定されるのであるから、A及びBは、各所有する土地が相隣接し、甲乙両地の境界を確定するについて最も密接な利害を有する者として、甲乙両地の境界確定の訴えの当事者適格を有するものということができる。

二  これを本件について見ると、原審の適法に確定した事実及び本件訴訟の経過によれば、(1) 兵庫県小野市復井町字十郎二六二番二二の土地と同一八の土地は相隣接する、(2) 被上告人は、昭和四〇年六月四日、同番二二の土地のうち原判決別紙合成図のP、、、Q、Pの各点を順次直線で結んだ範囲の土地(以下「被上告人取得土地」という。)を前所有者の永井義から買い受け、同番二二の土地全体について所有権移転登記を受けた、(3) 同番一八の土地の所有者の小林茂夫も、右同日、同番二二の土地の残余の部分(右合成図のQ、、①、②、Qの各点を順次直線で結んだ範囲の約四坪の土地。以下「小林取得土地」という。)を永井から買い受けた、(4) 小林取得土地は同番一八の土地との境界(以下「本件境界」という。)の全部に接続するが、被上告人取得土地は本件境界に接続しない、(5) 小林が平成七年四月七日に死亡したため、上告人らは、相続によって小林取得土地及び同番一八の土地を取得してこれらを共有している、(6) 上告人らと被上告人との間に本件境界について争いがあり、これを確定することによって初めて被上告人取得土地及び小林取得土地の範囲の特定が可能になるというのである。右事実関係の下においては、被上告人所有の土地と上告人ら共有の土地とは相隣接する関係にあって、被上告人は被上告人取得土地の範囲の特定のために本件境界を確定する必要があるから、被上告人は、本件境界について境界確定の訴えの当事者適格を有するものというべきである。

したがって、本件において境界確定の訴えの当事者適格を肯定した原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、所論引用の判例は、事案を異にし本件に適切でない。論旨は採用することができない。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官河合伸一 裁判官福田博 裁判官北川弘治 裁判官亀山継夫)

上告代理人坂和章平の上告理由

第一、境界確定に関する判断について

一、被上告人の当事者適格について

1、原判決は、別紙物件目録(一)乃至(三)記載の各土地(以下三筆を一括して「甲地」といい、個別に指称するときは「一九番土地」「二二番土地」「二三番土地」という)と同目録(四)記載の土地(以下「乙地」という)の境界確定請求の全部について本案判決を行っているが、右請求のうち二二番土地と乙地の境界確定請求に関する部分については、被上告人は当事者適格を有しない。

よって、本件境界確定請求のうち、二二番土地と乙地の境界確定請求に関する部分については、訴訟要件を欠いているため却下されるべきであり、右を看過した原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違背がある。

2、本件訴訟は、相互に隣接する甲地と乙地に関する境界確定訴訟であるが、境界確定訴訟は、土地の所有権の範囲の確認を目的とするものではないが、境界の確定により、事実上係争土地について処分するのと同様の結果となるものであることから、係争土地について処分権限を有する者、すなわち、相互に隣接する土地の各所有者についてのみ当事者適格が認められる(大判大九・七・六民録二六・九五八)。

「相隣接の所有者」の意義については争いがあるが、通説・判例は、境界に接する具体的な土地の実質的所有者であると解しており、公図上隣接する特定地番の土地の登記簿上の所有名義人にすぎない者は含まれないと解されている(最判昭五九・二・一六判例時報一一〇九・九〇)。

3、本件においては、甲地のうち二二番土地について、乙地に接する部分、すなわち、原判決別紙合成図(以下「合成図」という)の①・②・Q・・①の各点を順次直線で結んだ範囲の土地については、原判決の認定どおり、上告人らが所有している。

すなわち、甲地のうち二二番土地と乙地の境界について、相隣地の具体的な土地の実質的所有者はいずれも上告人らであり、被上告人は、公図上隣接する特定地番の土地の登記簿上の所有名義人にすぎないのである。

従って、甲地と乙地の境界確定請求のうち、二二番土地と乙地の境界確定請求に関する部分については、被上告人は当事者適格を有しないこと明らかであるため、右請求は却下されるべきである。

しかるに、原判決は、右当事者適格の欠缺を看過して、二二番土地と乙地の境界確定請求についてまで本案判決を行っており、右は、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違背に該当する。

よって、原判決は破棄されるべきである。

4、なお、前記「相隣地の所有者」の意義について、相隣地の一方の所有者が境界の全部又は一部に接する隣接地の一部を時効取得した場合であっても、両地の各所有者は当事者適格を失わないとする判例もある(最判昭五八・一〇・一八民集三七・八・一一二一、最判平七・三・七民集四九・三・九一九)。

右判例は、境界確定請求訴訟を提起された被告側が、境界の全部又は一部に接する隣接地の一部を時効取得した旨の抗弁を主張して争った場合に関するものであるが、本件は、時効取得により隣接地の一部を取得した場合ではなく、また、隣接地の一部の取得について当事者間に争いがない場合であるため、右判例の趣旨は当てはまらない。

すなわち、二二番土地について、被上告人は、昭和四〇年六月四日に、前所有者である訴外永井義(以下「永井」という)から買い受けたのであるが、被上告人は二二番土地の全部を買い受けたのではなく、二二番土地のうち乙地に接する部分(約四坪)については、右売買の以前から上告人らの父である亡小林茂夫(以下「亡茂夫」という)が自主占有していたため、被上告人は、亡茂夫が従前から自主占有していた部分を除いた残りの部分だけを買い受けたのである。

右については、被上告人自身も認めているところであり、それ故、所有権確認請求においても、自らが主張する二二番土地の範囲の全部についてその所有権を主張せず、合成図のオ(C24)・ワ(P23)・カ(P22)・ヨ(P21)・オ(C24)の各点を順次直線で結んだ範囲の土地は被上告人らの所有であるとして、その請求から除外しているのである。

このように、本件の場合には、二二番土地と乙地の境界の全部又は一部に接する二二番土地の一部について、被上告人は時効取得によりその所有権を失ったのではなく、元々所有権を有していなかったのであるから、前記判例の場合と同視することはできない。

境界確定訴訟の対象となる「境界」とは、公的に設定された地番と地番との筆界のことであり、右訴訟は右筆界を確定することを目的としているのであるから、二二番土地と乙地の境界の全部又は一部に接する二二番土地の一部について、元々所有権を有しておらず、従って、右境界について元々何らの利害関係及び処分権限を有しない被上告人については、二二番土地の所有権の範囲の確認を求める利益は認められても、右境界確定請求の当事者適格は認められないこと明らかである。

二〜四〈省略〉

第二〜第三〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例